「ら抜き言葉は間違いだ」と言われたことはありませんか?
「文法的に間違っている」と勉強した人もいると思います。
実は、『ら抜き言葉』は日本語の文法としては間違いです。
使ってはならないと国語では教えられます。
文化庁では『改まった場での「ら抜き言葉」の使用は現時点では認知しかねる』と明記されています。
ゆえに新聞、書籍、ビジネス文書などで使用すると間違いであると指摘されます。
しかしそうはいっても、日常生活のさまざまなところで使われていますよね。
雰囲気を重視してあえて『ら抜き言葉』を使うことは間違いではありません。
親しい間柄での会話なら、ら抜き言葉の方がわかりやすいこともありますね。
この記事では、ら抜き言葉の意味、原因、見分け方を説明しています。
ら抜き言葉で困っている方はぜひ参考にしてくださいね。
ら抜き言葉の意味|日本語の文法上間違いです
ら抜き言葉を以下の4つの項目に分けて説明します。
- ら抜き言葉の意味
- ら抜き言葉は日本語の文法上間違いです
- ら抜き言葉はいつ頃から使われているのか
- ら抜き言葉の例題
ら抜き言葉の意味
ら抜き言葉とは、本来あるべき『ら』が抜けてしまっている言葉のことです。
ら抜き言葉は、文化庁のホームページには以下のように書かれています。
いわゆる「ら抜き言葉」とは可能の意味の「見られる」「来られる」等を「見れる」「来れる」のように言う言い方のこと。
文化庁 | 言葉遣いに関すること(最終閲覧日2021年9月8日)
このように、ら抜き言葉は『られる』の『ら』が省略してしまった言葉です。
具体的に以下のような言葉になります。
『朝5時に来れますか』
典型的な『ら抜き言葉』ですね。
『来れます』という言葉は『来れる』に、可能の意味を持った助動詞『られる』が付く形が正しいのです。
『朝5時に来られますか』が正しい形なので、覚えておきましょう。
ら抜き言葉は日本語の文法上間違いです
『来れますか』は多くの人が使っている言葉だと思います。
しかし、文法的には誤りです。
そもそも『ら抜き言葉』自体が日本語の文法から大きく外れているからです。
本来、『れる』『られる』に動詞を付けるときは最後の音をア段でそろえるというルールがありました。
そして、ア段以外の場合は『ら』をわざわざ入れて、そろえなければならなかったのです。
その文法のルールを破っているのが、ら抜き言葉なのです。
ら抜き言葉はいつ頃から使われているのか
ら抜き言葉は、大正後半~昭和初期から使われてます。
現に、1924年(大正13年)発行の『標準日本文法』には以下のように明記されています。
被動の助辞「られる」の「ら」を省略して用ゐるのは「起きられる」「受けられる」「来られる」を略して「起きれる」「受けれる」「来(コ)れる」という類だ。
国立国会図書館デジタルコレクション | 『標準日本文法』松下三郎著(最終閲覧日2021年9月8日)
大正後半には、このように『ら抜き言葉』について議論されていました。
さらに、多くの文豪も『ら抜き言葉』を使っていたのです。
【ら抜き言葉が使われている作品例】
セリフ | 作品名 | 作者 | 発行年数 |
---|---|---|---|
三度も出直して『来れる』ところじゃないんだ | 蟹工船 | 小林多喜二 | 1929年 |
馬からすぐに『下りれ』たら | 北守将軍と三人兄弟の医者 | 宮沢賢治 | 1931年 |
飛騨もまた葉藏の顏を『見れ』なかつた | 道化の華 | 太宰治 | 1936年 |
ら抜き言葉は、大正後半~昭和初期頃には既に知られていました。
100年以上前から使われている言葉なのです。
ら抜き言葉の例題
ら抜き言葉は以下のようなものがあります。
【ら抜き言葉の一例】
ら抜き言葉 | 正しい言葉 |
---|---|
来れる | 来られる |
食べる | 食べられる |
見れる | 見られる |
寝れる | 寝られる |
出れる | 出られる |
これらはすべてら抜き言葉となります。
普段から使っている方も多くいるでしょう。
文化庁も以下のように示しています。
話し言葉では認めてもよいのではないかという考え方もある。
文化庁 | 言葉遣いに関すること(最終閲覧日2021年9月10日)
語源は変化していくものです。
いつの日か、ら抜き言葉が話し言葉としては認められる日がくるかもしれません。
一方で、「速すぎる変化スピードは本来の意味を正しく伝えられない」と警鐘をならす専門家もいます。
ら抜き言葉は、100年前からあり戦後70年で爆発的に広がりました。
そのため、同じ時代に存在しているのに会話ができないという事態になるというのです。
極端な話ですが、例えば祖父母と孫の間で同じ日本語なのに会話にならない、ということもあり得るのです。
ですので、正しい表現は必ず覚えて活用してくださいね。
ら抜き言葉が発生する理由をかみ砕いて解説
ら抜き言葉が起こる原因は、以下の2つがあります。
- 動詞の活用が上一段、下一段のとき
- 可能の意味をあらわすとき
動詞の活用が上一段、下一段のとき
ら抜き言葉は、動詞の活用が上一段、下一段のときに起こります。
『上一段活用』と『下一段活用』の動詞に付けるべき『られる』が、間違って『れる』になってしまうことが多いからです。
『れる』『られる』は以下の2通りの方法でどちらが付くのか決まります。
- 一段活用の動詞+『られる』
- 五段活用の動詞+『れる』
例えば『寝る』という動詞があります。
この『寝る』を変化させて『られる』または『れる』を付けます。
そのためには『寝る』の活用を確認しなければなりません。
『寝る』は下一段活用の動詞。
下一段活用とは、『寝』の部分の母音が『エ』のひとつだけしか変化しない動詞です。
一段活用の場合は『られる』を付けます。
ですので、正しくは『寝られる』となります。
【動詞と『られる』『れる』の関係例】
活用方法 | 動詞の例 | 『られる』か『れる』 |
---|---|---|
上一段活用 | 着る・見る | られる |
下一段活用 | 寝る・蹴る | られる |
五段活用 | 読む・行く | れる |
実は、一段活用の動詞はそれぞれ十数語ずつしかありません。
動詞のほとんどが五段活用なのです。
そのため、基本的には『れる』を付けることになります。
『られる』のつく一段活用はイレギュラーです。
イレギュラーは間違えやすいですよね。
ですので、ら抜き言葉は動詞の活用方法が上一段、下一段のときに起こるのです。
可能の意味をあらわすとき
ら抜き言葉は可能の意味を表す動詞のときに、あらわれます。
なぜなら、助動詞である『れる』『られる』がややこしいからです。
助動詞である『れる』『られる』には、受け身・尊敬・自発・可能の4つの意味があります。
【受け身・尊敬・自発・可能の意味一覧】
受け身 | 自分の意志とは関係なく他から何かされてしまうこと |
尊敬 | 身分の高い人間に対しての言葉遣い |
自発 | 自然と動作をしたり、何かを思ったりすること |
可能 | することができるという意味 |
この4つは文章を読むことでしか、違いを見つけられません。
そのため、可能の意味を持つものだけ『ら』を抜いてわかりやすくしているのです。
現に、文化庁では以下のように明記されています。
『ら抜き言葉』の増加は可能表現の体系的な変化である
文化庁 | 言葉遣いに関すること(最終閲覧日2021年9月10日)
したがって、ら抜き言葉は可能表現をわかりやすくするために起こるのです。
【簡単】ら抜き言葉を見分ける3つの方法
ら抜き言葉を見分けるには3つの方法があります。
- 『ら』を足してみる
- 『~よう』に置き換えてみる
- 『~ない』に置き換えてみる
『ら』を足してみる
文章に『ら』を実際に足してみましょう。
そうすることで、ら抜き言葉かどうかを確認できます。
「そのボールを遠くに投げれる?」
このような例文があったとします。
この『投げれる』に『ら』を足してみます。
「そのボールを遠くに投げ『ら』れる?」
意味が通じるので、これは『ら抜き言葉』だと判断できます。
また、このような例文はどうでしょう。
「この車には乗れる?」
同じように『ら』を追加してみましょう。
「この車には乗れ『ら』る?」
追加してみた所、意味が通じない文章になってしまいました。
つまり、『乗れる』は『ら抜き言葉』ではないと判断できます。
このように『ら抜き言葉』かどうか悩んだら、『ら』を追加して読んでみましょう。
『~よう』に置き換えてみる
動詞を、勧誘の意味が含まれる『~よう』に言い換えます。
そうすることで、ら抜き言葉かどうかが判断できます。
可能表現である『られる』がつく動詞は、勧誘の『~よう』も付くのです。
例えば、『投げる』という言葉に『~よう』を付けてみます。
『投げよう』となり、意味が通じる言葉になります。
『乗る』はどうでしょう。
『乗よう』とはなりませんよね。
このように『~よう』と付く言葉は、ら抜き言葉になります。
したがって、『~よう』をつけてら抜き言葉か見分けることができるのです。
『~ない』に置き換えてみる
『~ない』にも置き換えてみましょう。
『~よう』と同じように『~ない』も置き換えることで、ら抜き言葉を見つけられます。
- 投げる→投げない
- 乗る→乗ない
投げるは、意味が通じますね。
乗るは、不自然な言葉になっています。
したがって、投げるはら抜き言葉と判断できます。
乗るはら抜き言葉ではないといえます。
迷ったときは、『~よう』を入れてら抜き言葉であるか確認してみましょう。
ら抜き言葉が間違いでないケースもある
文法で間違っているとされるら抜き言葉。
使い方次第では間違いではないこともあります。
以下の3つに分けて説明します。
- 話ことばで使用するとき
- 方言として利用するとき
- あえて使用するとき
話ことばで使用するとき
話ことばでの使用は間違いではありません。
自然な会話であれば、間違いとは言えないのです。
2015年度に文化庁が行った『国語に関する世論調査』というものがあります。
16歳以上の男女に、どちらの表現を普段から使うか調査したものです。
(ア)早く出られる:44.3%
平成 27 年度「国語に関する世論調査」の結果の概要 | 4 「ら抜き」,「さ入れ」,「やる/あげる」
(イ)早く出れる:45.1%
(ア)今年は初日の出が見られた:44.6%
(イ)今年は初日の出が見れた:48.4%
(最終閲覧日2021年9月9日)
このように正しい表現の(ア)より、ら抜き言葉である(イ)を使う人の方が多い結果となっています。
ら抜き言葉が日常生活に浸透している証拠ですね。
ですので、家族や親しい友人などの会話に使用する分には良いでしょう。
しかしそうはいっても、2021年の時点でら抜き言葉は間違いとされています。
目上の人との会話や、ビジネスでの使用は避けるべきです。
ビジネス、学校や公的な文章においても使われていません。
使う場面を考えなければ、相手に失礼な印象を与えてしまいます。
そのため、カジュアルな場面だけの使用に留めておきましょう。
方言として利用するとき
ら抜き言葉は、北海道・北陸・近畿・中部の方言として使用されることがあります。
事実、文化庁では以下のように書かれています。
北陸から中部にかけての地域及び北海道など,従来「ら抜き言葉」を多く使う地域がある
文化庁 | 言葉遣いに関すること(最終閲覧日2021年9月9日)
このように、ら抜き言葉は方言として昔から使われていた言葉なのです。
ですので、方言としての使用は間違いではない、と覚えておきましょう。
あえて使用するとき
リズムや雰囲気で、あえて使用する場合も間違いではありません。
ら抜き言葉は、若者言葉と言われています。
そのため砕けた表現とされていますね。
砕けた表現のため、親近感を出すためにわざと使用することも良いでしょう。
また、たった一文字ですが、リズムやスピード感にも違いが現われます。
歌詞に利用されることも多いのです。
例えば、槇原敬之さんの『遠く遠く』という曲にもら抜き言葉が使われています。
『今までやってこれたよ』
『来られたよ』の『ら』が抜けています。
このように、雰囲気やリズムに合わせてあえて『ら抜き言葉』にすることは、間違いではありません。
まとめ|ら抜き言葉は使わないようにしよう
この記事では『ら抜き言葉』についてお伝えしました。
『ら抜き言葉』とは、あるはずの『ら』が抜け落ちてしまった言葉です。
文法としては間違った表現となります。
『ら抜き言葉』を判断するときは、『ら抜き言葉の3つの見分け方』を見てくださいね。
・『ら』を足してみる
・『~よう』に置き換えてみる
・『~ない』に置き換えてみる
『ら抜き言葉』が判断できれば、ビジネスや文章作成での失敗が防げますね。
しかし、『国語に関する世論調査』では『ら抜き言葉』を日常的に使用する人も多くいることがわかりました。
話し言葉や方言では、間違いではなく普通に使われることもあります。
ですので、状況に合わせて『ら抜き言葉』を使えるように、この記事を参考にしてくださいね。