「ぞっとしないって言葉は、恐ろしくないっていう意味で当たっているかな?」
あなたが文章を書くとき、『ぞっとしない』など誤用しやすい慣用句の使い方で不安に感じたことはありませんか。
そんなときは、記事を書く前に意味や使い方をしっかりと理解しましょう。
『ぞっとしない』は、『面白くない・感心しない』という意味が正解!
ところが、『ぞっとしない』は『恐ろしくない・怖くない』という意味で勘違いしている人が多いといわれています。
実際に辞書で調べると『興味がない、面白くないといった意味の語』と書かれていますし、文化庁の国語の世論調査でも50%以上の人が意味を勘違いしています。
このことから『ぞっとしない』は、間違えやすい慣用句の1つといえるので注意が必要です。
そこでこの記事では『ぞっとしない』の意味や使い方を詳しく解説。
『ぞっとしない』と同じように、思わず誤用してしまうその他の慣用句についても解説します。
『ぞっとしない』など間違えやすい慣用句の正しい使い方をマスターして記事作成に役立てたいという人は、この記事をチェックしてくださいね。
『ぞっとしない』という慣用句の本来の意味
『ぞっとしない』という言葉は慣用句の1つです。
冒頭でも書きましたが、『怖くない』『恐ろしくない』という意味は正しくありません。
『ぞっとしない』とは、『面白くない』『感心しない』が正しい意味になります。
そのため『ぞっとしない話』というのは、『怖くない話』ではなく『面白くない話』や『感心しない話』という意味になりますよ。
実用日本語表現辞典にも次のように書かれています。
興味がない、面白くないといった意味の語。
Weblio辞書『ぞっとしない』(閲覧日2021年6月22日)
このように、『ぞっとしない』という言葉は『面白くない』『感心しない』という意味で使われる言葉です。
『怖くない』『恐ろしくない』などの意味で誤用されがちなので気をつけましょう。
ぞっとしないの使い方は2人に1人が間違える
誤用されやすいといえる『ぞっとしない』ですが、いったいなぜ間違えてしまうのかを考えてみました。
実際の調査結果と間違えやすい理由について次の3つの項目で解説します。
- 世論調査の結果
- 『ぞっとしない』の由来
- 『ぞっとしない』と『ぞっとする』は意味が異なる
世論調査の結果
文化庁による『国語に関する世論調査』というものがあります。
この世論調査の結果、50%以上の人が『ぞっとしない』とは『恐ろしくない』という意味だと勘違いしていることがわかりました。
【ぞっとしないは何を意味するのか】
調査年度 | 『面白くない』こと | 『恐ろしくない』こと |
---|---|---|
平成18年 | 31.3% | 54.1% |
平成28年 | 22.8% | 56.1% |
上の表は『ぞっとしない』の意味について尋ねられ、『面白くない』と答えた人と『恐ろしくない』と答えた人のそれぞれの割合を表しています。
表を見てのとおり、50%以上の人が『ぞっとしない』の意味を『恐ろしくない』だと勘違いしていますよね。
このように、『日本人の2人に1人が間違えている』という結果がハッキリと出ています。
『ぞっとしない』は間違えやすい言葉といえますね。
『ぞっとしない』の由来
『ぞっとしない』は、『ぞっと』と『しない』が組み合わさった言葉です。
そこから考えると、『ぞっとしない』の正しい意味が『面白くない』になるのかがわかりますよ。
そもそも『ぞっとしない』の『ぞっと』には「強い感動を受け、身体が震えあがるさま」という意味があります。
この意味をもとに考えると、『ぞっとしない』は『ぞっと』+否定形。
つまり、『強い感動を受けない』ということになります。
『強い感動を受けない』=『面白くない』となりますよね。
このように、『ぞっとしない』の言葉の由来を考えることで本当の意味に辿り着きます。
しかし、『ぞっとしない』は『ぞっとする』の否定形と思い込んでしまう人が多いです。
そのため、間違えやすい言葉となっていますよ。
『ぞっとしない』と『ぞっとする』は意味が異なる
先ほども解説したように、『ぞっと』には『強い感動を受け、身体が震えあがるさま』という意味があります。
実は、ほかにも意味があるので解説しますね。
- 恐ろしさで身の毛がよだつさま。からだが震えあがるような感じのするさま
- 美しいものに出会うなどして、強い感動を受けてからだが震えあがるさま
- 寒さでからだが震えあがるさま
上記を見て分かるように、1の意味から『ぞっとする』は『恐ろしい』『怖い』という意味になっています。
しかし、『ぞっとしない』の場合は1の意味は使わず、2の意味を使い『面白くない』となるのです。
このように、『ぞっとする』と『ぞっとしない』では『ぞっと』を違う意味で使っています。
そのことが理由で間違えやすくなっているということですね。
ここでは『ぞっとする』と『ぞっとしない』を違う意味で使うということを、実際の文学作品の中にある文章を用いて解説します。
ぞっとする
『ぞっとする』は『恐怖を感じてからだが震えあがる』という意味があります。
女のほそい声が玄関で致します。私は、総身に冷水を浴びせられたように、ぞっとしました
『ヴィヨンの妻』太宰治(1947年)青空文庫より(閲覧日2021年6月23日)
これは、太宰治の『ヴィヨンの妻』という作品の1文です。
泥酔した夫が帰宅した後に「ごめんください」という女の声が玄関でしたときの心情を書いています。
夫=『私』がその声に動揺し恐怖を感じたことを表していると考えられますよね。
このように、『ぞっとする』は『恐怖を感じる』『恐ろしい』という意味で使う言葉です。
ぞっとしない
『ぞっとしない』は『強い感動を受けない。面白くない』という意味があります。
しかもそれを濡らした水は、幾日前に汲んだ、溜め置きかと考えると、余りぞっとしない。
『草枕』五 夏目漱石(1906年)青空文庫より(閲覧日2021年6月23日)
これは、夏目漱石の『草枕』に書かれている1文です。
数日前にくんだ水に対して『ぞっとしない』と言っています。
これは『恐ろしくない』ではなく『いい気分ではない』という意味のほうが適しているといえますよね。
『草枕』の1文のように、『ぞっとしない』は『いい気分ではない』『感動を受けない』という意味で使われています。
『ぞっとする』と『ぞっとしない』では、これだけ意味が異なるということを覚えておきましょう。
『ぞっとしない』という言葉の正しい使い方
『ぞっとしない』という言葉はいったいどのように使うのか、正しい使い方を次の2つの項目で解説します。
- 『ぞっとしない』の例文
- 『ぞっとしない』と同じ意味の慣用句
『ぞっとしない』の例文
『ぞっとしない』は『面白くない』『感心しない』『いい気分ではない』様子を表すときに使います。
〈例文:面白くない〉
・あの漫画はあまりぞっとしない。
・友達は楽しそうに話をしていたが僕はぞっとしなかった。
〈例文:感心しない〉
・その授業態度はぞっとしないね。
・お好み焼きとごはんを一緒に食べるなんてあまりぞっとしないなあ。
〈例文:いい気分ではない〉
・楽しみにしていた運動会が雨で中止になったのでぞっとしない。
・食後に食べるつもりで残しておいたプリンを食べられてぞっとしない。
例文のように使いにますよ。
仮に、『ぞっとしない』を『恐ろしくない』『怖くない』という意味に置き換えると文章が成り立たなくなりますよね。
このように『面白くない』『感心しない』『いい気分がしない』という意味で使う方法が正しい使い方です。
『ぞっとしない』はあまり使わない言葉なので、例文にしてもピンとこないところがあります。
それでも文章を書くときは、正しい意味を理解して使うことが大切といえますね。
『ぞっとしない』と同じ意味の慣用句
記事のはじめのほうでもいいましたが、『ぞっとしない』は慣用句の1つです。
『ぞっとしない』と同じような意味の慣用句を紹介します。
- 味も素っ気もない
- 芸がない
- 座が白ける
- 枠にはまる
味も素っ気もない
『味も素っ気もない』は、『何の趣(おもむき)もない』『無味乾燥である』『つまらない』という意味があります。
〈例文A〉
その格好は味も素っ気もない格好だなあ
〈例文B〉
その格好はぞっとしない格好だなあ
上の例文は、『つまらない格好だ』という意味の文章です。
『ぞっとしない』に置き換えても同じような意味になりますよね。
このように『味も素っ気もない』は、『ぞっとしない』と同じように『つまらない』という意味で使う慣用句です。
芸がない
『芸がない』は、『工夫や趣向がない』『面白味がない』などの意味があります。
芸人などの芸のなさを嘆くときにも使いますが、何の工夫もないときなどにも使う言葉です。
〈例文〉
今日の君のプレゼンテーションはまったく芸がなかった。
例文のように『工夫がないさま』を表すときに使います。
『ぞっとしない』は、『面白くない』という意味で使うので似た意味の慣用句といえますね。
座が白ける
『座が白ける』は、『それまで盛り上がっていた雰囲気が壊れて面白味がなくなること』を表す言葉です。
〈例文〉
君がこの部屋に入ってきたから座が白けてしまったよ。
例文のように、雰囲気が変わって面白くなくなったときに使いますよね。
『面白くなくなる』という意味で使うので、『ぞっとしない』とほぼ同じ意味の慣用句といえます。
枠にはまる
『枠にはまる』は、『型どおりで新味がない』という意味があります。
〈例文〉
あのドラマは枠にはまりすぎて新鮮さが足りない。
例文のように、『型にはまりすぎて面白さに欠ける』ときに使いますよね。
『面白さに欠ける』=『面白くない』ということなので、『ぞっとしない』と似た慣用句といえますね。
辞書不要!ぞっとしないの英語を例文で解説
『ぞっとしない』は日本人でも間違えやすい言葉です。
その日本人でも間違えやすい『ぞっとしない』を英語で表現するとどのようになるでしょうか。
実は、『ぞっとしない』と直訳できる英語はありません。
英語にするときも、『面白くない』『感心しない』という意味で英文を考えます。
〈例文〉
・It’s not fun.(面白くない)
・It’s not interesting.(面白くない)
・It’s not overly impressed.(あまり感動しない)
・It’s not very happy with.(あまり満足できない)
上のような英文になりますよ。
『ぞっとしない』を英語で表現するときは『面白くない』『感心しない』という意味の言葉で置き換えて表現する必要があります。
このように、『ぞっとしない』は日本人の独特な表現といえますね。
「ほかにもある!」意味を間違えやすい慣用句
慣用句はたくさん存在しますが、『ぞっとしない』のように意味を間違えやすい言葉は他にもあります。
意味を理解して、文章を書くときに使ってみましょう。
- 琴線に触れる
- 鳥肌が立つ
- おもむろ
- 悪運が強い
- 情けはひとの為ならず
琴線に触れる
『琴線に触れる』の正しい意味は『良いものや素晴らしいものに触れて感動する』ということです。
〈間違った例文〉
私の余計な一言が彼女の琴線に触れてしまったようだ。
例文のように、『相手の怒りを買ってしまうこと』を表すのは間違っています。
- (誤)相手の怒りを買ってしまうこと
- (正)良いものや素晴らしいものに触れて感動すること
上記のように、何かに触れて感動することが正解です。
正しい意味を理解して使うようにしましょう。
使い方
『琴線に触れる』は何かに出会って感動したときに使います。
〈例文〉
あの音楽隊の演奏は琴線に触れるものがあった。
例文は、演奏を聞いて感動したことを表現しています。
このように、『琴線に触れる』は良いものと出会って感動したことを表現するときに使いますよ。
鳥肌が立つ
『鳥肌が立つ』は、『寒さや恐怖などの強い刺激によって鳥肌が生じること』を意味しています。
〈間違った例文〉
ウィーン少年合唱団の歌声を聞いて鳥肌が立ってしまった。
上の例文のように、『何かに感動するとき』に使うのは間違っています。
実際に歌をきいて鳥肌が立ったとしても、慣用句として使うことは間違っているということですね。
- (誤)深い感銘を受ける。感動する。
- (正)寒さや恐怖などの強い刺激によって鳥肌が生じること。
正しくは、寒さや恐怖によって鳥肌が立つことをいいます。
間違って使うとまったく違う意味になってしまいますよ。
読み手が混乱してしまうので、正しい意味を覚えてから使うようにしましょう。
使い方
『鳥肌が立つ』は鳥肌が立つくらいの寒さや恐怖を感じたときに使います。
〈例文〉
こないだ旅行で行った神社で、数日後に殺人事件が起きたと聞いて鳥肌が立った。
上の文章は、自分が行ったことがある場所で事件が起きたと聞いて恐怖を感じたことを表しています。
このように、『鳥肌が立つ』は強い恐怖を感じたときに使う慣用句です。
おもむろ
『おもむろ』は、『落ち着いて事を始めるさま。しずかに。ゆるやかに。』という意味が正しいです。
〈間違った例文〉
彼はおもむろに走ってきて、私を呼び止めた。
例文は、『彼が突然走ってきた』ことを意味しています。
これは間違いです。
- (誤)いきなり。不意に。突然。
- (正)落ち着いてことを始めるさま。しずかに。ゆるやかに。
先ほどの例文でいうと、正しい意味に置き換えるとまったく反対の意味になってしまいます。
意味を理解してから使うことを心がけましょう。
使い方
『おもむろ』は、『ゆるやかなさま』を表現したいときに使います。
〈例文〉
彼女はおもむろに私に近づき、優しい口調で語り出した。
上の例文は、彼女がゆっくりと近づいてきた様子を表現しています。
この例文のように、『おもむろ』はゆるやかな様子を表す言葉です。
悪運が強い
『悪運が強い』の正しい意味は、『悪いことをしても悪事の報いを受けなくて済む運がある』を意味する慣用句です。
〈間違った例文〉
彼「車を運転中に事故を起こしてしまったけど、怪我はなかった」
彼女「あなたは本当に悪運が強いわね」
この例文は、事故を起こしてしまった彼とその話を聞いた彼女との会話文です。
事故を起こしたけど怪我をしなかった彼に対して『運が良かった』という意味で使っています。
しかし、この使い方は間違いです。
- (誤)悪いことが起こった中であっても運が良いこと
- (正)悪いことをしたにもかかわらず悪事の報いを受けることなく栄える運が強いこと
正しくは、悪いことをしたのに咎められずに済むことをいいますよ。
間違えやすいので気をつけましょう。
使い方
『悪運が強い』は、悪事を働いたのに罰を受けないさまを表しています。
〈例文〉
弟は僕のおやつを勝手に食べたくせに、お母さんに怒られなかった。あいつは悪運が強いから腹が立つ。
上記の例文は、悪いことをした弟がお母さんに怒られなかった話を書いています。
このように、悪事を働いても咎められないことを『悪運が強い』といいますよ。
情けは人の為ならず
『情けは人の為ならず』は、『情けを人にかけておけば、めぐりめぐって自分に良いことが起こる』という意味の慣用句です。
〈間違った使い方〉
情けは人の為ならずと言うし、彼女の手伝いをするのはやめとこう
上の例文は、『彼女の手伝いをしたら彼女のためにならない』という意味で使っている文章です。
この使い方は間違っています。
- (誤)人に情けをかけるのは、その人のためにならない
- (正)情けを人にかけておけば、めぐりめぐって自分に良い報いが返ってくる
このように、『人の為ならず』とはその人のためではなく『人のためではなく自分のため』という意味があります。
『情けはその人のためにならないから、情けはかけないほうが良い』と間違えて解釈してしまうと、まったく逆の意味になってしまいますね。
使い方
『情けは人の為ならず』は、『情けを人にかけることで、いずれは自分に良いことが返ってくる』という意味で使われる言葉です。
〈例文〉
昨日、街で困っているおばあさんを見かけた。情けは人の為ならずっていうし、おばあさんを助けてあげたよ。
上の文章は、困っているお婆さんを見かけて「いつか自分に良いことが返ってくる」と思いながら助けたことを表した文章です。
このように『情けは人の為ならず』は、『誰かのためにすることは、いつか自分のためになる』ということを意味する慣用句です。
まとめ|ぞっとしないの本来の意味を覚えておこう
この記事を読んで『ぞっとしない』の正しい意味や使い方が分かりましたね。
『ぞっとしない』は『恐ろしくない・怖くない』という意味ではなく、『面白くない・感心しない』という意味が正しいですよ。
記事で解説したように、『ぞっとしない』は誤用されやすい慣用句の1つなので注意が必要です。
実際に、文化庁による『国語に関する世論調査』(平成28年度)で22.8%の人しか『ぞっとしない』の正しい意味を答えられなかったと結果が出ています。
このことから、『ぞっとしない』を使うときは『面白くない・感心しない』という意味で使うことが大切です。
また、このように誤用されやすい慣用句を使うときは意味をしっかりと理解した上で使うようにしましょう。