「よく『させていただく』を使うが正しい意味がわからない」
「丁寧にしたつもりだけど、敬語が重なりすぎてしまった」
「させていただく以外で同じような表現ってあるのかな」
もしもあなたが『させていただく』の使い方に自信がなければ1度正しい意味を理解しましょう。
なぜなら、『させていただく』は使える場面がきちんと決められており、それ以外で使用するとかえって失礼にあたるかもしれないからです。
後ほど詳しく解説いたしますが、『させていただく』が使用できるのは相手から『許可』を得て『恩恵』を受けられるときです。
『させていただく』の意味をマスターしたい方はこの記事をチェックしてくださいね。
さらに、『させていただく』に代わる表現もご紹介していますので、より文章力を向上させたい方もご確認ください。
させていただくの意味や症候群を丁寧に解説
まず『させていただく』の意味と使える条件について解説します。
使い方があいまいだった人も今一度確認していましょう。
- 『させていただく』の意味
- 使えるのは『許可』と『恩恵』を受けたとき
- させて頂く症候群?よく使われる理由
『させていただく』の意味
近年さまざまな場面でみる『させていただく』という言葉ですが、辞書では次のような意味があります。
自分の行為や動作について「相手の許しのもとに行う」といった意味合いを持たせる、へりくだった言い方。謙譲表現の一種として補助動詞的に用いられる。
Weblio辞書|させていただく(最終閲覧日2021年7月30日)
「させていただく」は連語であり、助動詞「させる」、接続助詞「て」、補助動詞「いただく」で構成されている。使役の助動詞「させる」を「いただく」と受けることで、相手の指示あるいは許可が先行しているという意味合いが醸される。
このように記載されており、基本には自分の行為をさげて敬意を表す謙譲語です。
しかし『させていただく』はとりあえず使っておけば丁寧な表現だと誤解されている人が増え、『させていただく症候群』とも呼ばれています。
使えるのは『許可』と『恩恵』を受けたとき
実際に『させていただく』という言葉が使える場面は次にあげる2つの条件に当てはまる場合です。
- 自分がおこなう動作に対して相手から許可を受けたとき
- 許可を受けたことで自分に恩恵がある場合
文化庁のホームページでも下記の見解がされています。
「させていただく」の使い方の問題点
文化庁文化審議会答申|敬語の指針(最終閲覧日2021年7月30日)
~中略~
ア)相手側又は第三者の許可を受けて行い,イ)そのことで恩恵を受けるという事実や気持ちのある場合に使われる。
このように記載されており、思っている以上に『させていだたく』を使える場面は限られていますよね。
この前提条件を理解していると、自分がおこなう行為にとりあえず『させていだたく』を付ける風潮が正しくないとわかります。
させて頂く症候群?よく使われる理由
なぜ『させていただく』という表現が多方面で使われるようになったのか解説していきましょう。
政治家が多用したため
1つめの理由ですが、2010年ごろ当時の総理大臣だった鳩山由紀夫氏が答弁の中で多用したからだと言われています。
早稲田大学法学学術院教授の水島朝穂氏も自身のホームページで『させていだたく症候群』というタイトルで鳩山由紀夫氏について下記のように記載しています。
首相の責任を問う声が高まるなか、鳩山首相は両院議員総会で辞意を表明した。そこでも「社民党とは一緒にこれまで仕事をさせていただいてきた」(同6月2日付)と語り、何とも腰が座らない。おそらく歴代の首相のなかで、この「させていただく」という謙譲表現の使用頻度は、最も高かったのではないか。
平和憲法のメッセージ|「させていただく」症候群(最終閲覧日2021年8月1日)
このように当時の総理大臣が『させていだたく』を多用し、その様子を国民が視聴したことで、敬語として認知度が高まったとの見方がされています。
適度な距離感が保てるため
2つめの理由ですが、近年SNSの普及により顔の見えない相手とのやりとりが増えたこともあり、ちょうどいい距離感が求められているからだと言われています。
実際に法政大学文学部教授の椎名美智氏は、総合カルチャーサイト『Real Sound』のインタビューで下記のように答えています。
「させてくださる」と「させていただく」を比べると、「させてくださる」は主語があなたなので、言葉であなたに触れてしまうんですが、「させていただく」は自分が主語なので、あなたに触れずに丁寧になって距離感が出せるので、無難なんじゃないでしょうか。特に、「あなた認知」の動詞は、距離感のある「させていただく」と一緒に使うと、遠近両用っていうか、押しつけがましさが薄れて、ほどよい距離感が演出できるからだと思います。
Real Sound|人はなぜ「させていただく」に違和感をおぼえる? 言語学者が解き明かす“敬意のインフレーション”(最終閲覧日2021年8月1日)
このように『させていただく』は距離感のわからない相手とコミュニケーションをする中でとりあえず失礼がないように重宝されたということですね。
影響力の高い人が多用したことや、使い勝手のよさから『させていただく』という言葉が広く利用されるようになったことがわかりますね。
正しいのか間違いなのか?使い方を例文で解説
では実際に『させていただく』の使い方を解説していきます。
- 正しい使い方と例文
- 誤った使い方と例文
正しい使い方と例文
まず『させていただく』を使った正しい文をご紹介します。
前述したとおり、『させていただく』が適切なのは相手からの『許可』と自分が受ける『恩恵』がある場合です。
正しい使い方の例文
次のような場合には『させていただく』が適切に使えています。
1.頂いた個人情報はこちらで処分させていただきます
2.本プロジェクトを担当させていただきたいのですがよろしいでしょうか?
3.お電話番号を控えさせていただきたいのですがよろしいでしょうか?
この例文ではそれぞれ、相手から『許可』をもらうことで自分にメリットが生まれていますよね。
このように『させていただく』は決して一方的に言い切る言葉ではなく、相手が存在して初めて使える言葉だと覚えておきましょう。
間違いがちな使い方
注意ですが、2つめに紹介した『担当させていただきたい』はそれを許可する人以外に使うと意味が通じなくなります。
たとえば、よくやってしまいがちなのが新しい営業担当者の「今度担当させていただきます○○です」という言い方です。
しかしお客さんからすると自分が担当を決めた訳ではなく、とくに許可した覚えはありませんよね。
このような場合には『させていただく』は間違った使い方になってしまいます。
間違いな使い方と例文
次に『させていただく』の誤った使い方を紹介します。
よくやってしまいがちな間違いが次の3つです。
とりあえず『させていただく』を付ける
丁寧さを出すために文章に『させていただく』たくさん付ける方がいますが、これは誤った使い方です。
(誤用例文)
・先日打ち合わせをさせていただいた件でご連絡させていただきました。お送りさせていただいたメールをご確認ください。
このように『させていただく』を多用していると、何について述べているのかわからなくなり相手に内容が伝わりません。
さらに敬語の使い方としても誤っているのでビジネスでも相手からの心証が悪くなるかもしれませんよ。
後述していますが『させていただく』は別の表現に置き換えることができます。
条件に当てはまらないタイミングでは無理して『させていただく』を使わずに、その場にあった言葉を使用しましょう。
自分の立場に『させていただく』を付ける
よくある間違いの2つめが自分に立場や役職に『させていただく』を付けることです。
これもただ「〇〇をしていました」と答えるより丁寧な雰囲気があるので使う人がいますが、言われた方が許可した訳ではありませんよね。
(誤用例文)
・当団体の代表をさせていただいております
・サークルで部長をさせていただいていました
このような言い回しはよく耳にしますが、『させていただく』本来の使い方とは異なりますので注意しましょう。
仮に周りの方に選出されそのポジションについた場合には『許可』に当てはまるので、どのような状況かも判断材料になります。
物事を開始するときに『させていただく』を付ける
イベントや講演会のような何かをスタートするときに『させていただく』を付けることがありますが、この使い方もあまりよくありません。
(誤用例文)
・これよりパーティーを開始させていただきます
・定刻となりましたので始めさせていただきます
スタートの時間を設定しているのはあくまで主催者側であり、参加者が許可した訳ではありませんよね。
主催者側も決まった時間に開始しているだけなのでとくに恩恵も受けていません。
オーディエンスがいると、より丁寧に伝えなくてはいけないと思いがちですが参加者の中には逆に違和感を持つ人もいるかもしれません。
このように日常よく耳にする使い方でも本来の意味と異なる場合があります。
後述で『させていただく』の注意点をさらに詳しく述べていますので、そちらもご確認くださいね。
二重敬語や許可など|させていただくの注意点
『させていただく』を使う場合にはいくつか注意すべき点がありますので、ご紹介します。
- 二重敬語にしない
- 『さ入れ表現』をしない
- 許可を得ていないときは使わない
- 許可が不要なときは使わない
- 『いただく』はひらがな表記
順番に説明しています。
1.二重敬語にしない
1つめが二重敬語にしないということです。
二重敬語とは、1つの文中に敬語表現を重ねてしまうことで『させていただく』を使ったときにやってしまいがちな間違えです。
下記の例文で解説いたします。
誤用例文
講演会を拝聴させていだだきます
もともと『拝聴する』が『聴く』の謙譲語で使われており、へりくだった表現をしています。
それにもかかわらず『させていただきます』で謙譲表現を重ねてしまうと、二重敬語になってしまいますね。
この文では下記のようにするのが正解です。
正:講演会を拝聴します
敬語表現も1つになり、すっきりしましたね。
よく『拝聴いたします』という方もいますが、こちらも『拝聴』と『致す』が二重敬語になってしまっているので間違った使い方です。
このように丁寧な表現にしたつもりが、逆に敬語を重ねて誤った表現になっていることがありますので、注意しましょう。
2.『さ入れ表現』をしない
2つめですが『さ入れ表現』をしないようにしましょう。
『させていただく』を多用すると本来なら『~せていただきます』と表現すべきところを『~させていただきます』と不要な『さ』を入れてしまうことがあるからです。
次の例文をみてみましょう。
(さ入れ言葉の例文)
誤:今日は休まさせていただきます
正:今日は休ませていただきます
本来だったら『さ』が不要な文ですが、『させていただきます』を使おうとすると上のような誤った文になってしまいますね。
誤:私が行かさせていただきます
正:私が行かせていただきます
これも誤った表現ですが、よく聞く言い方ですよね。
丁寧な表現=『させていただく』だと考えているとこのような間違えが起こりやすくなります。
さ入れ言葉かどうか判断するには、『さ』を抜いても意味が通じるか確認してみましょう。
上記の例文ではどちらも『さ』がなくても文が成り立っていますよね。
この場合、『さ』は不要な存在だとわかります。
逆に次の場合は『さ』をなくすと意味が通りません。
・このように変更させていただきました
・日程を決定させていただきました
そして前述したとおり、『許可』と『恩恵』が含まれているので『させていただく』が使える分だとわかりますね。
このように不要な『さ』を入れると文章も無駄に大げさで読みにくくなります。
とりあえず『させていただく』と書いても、それが本当に正しいか一度確認しましょう
3.許可を得ていないときは使わない
『させていただく』は相手から許可される内容に対して使用できる言葉なので、許可をともなわないときは使用できません。
次の例文をみてみましょう。
・来月に退職させていただきます
・有給を取らさせていただきます
たとえば、このように同僚に言われたらどこか上から目線な感じがして「別に許可していないけど」と思いますよね。
相手に許可を求めることでなければ『させていただく』を使うのは誤りです。
上記の文はこのように直せます。
・来月に退職いたします
・有給を取ります
このように『~いたします』や『~ます』を使えば文法上も正しくすっきりした文章にできますね。
『させていただく』を使うときは、相手に許可をもらう内容だったか気にするようにしましょう。
4.許可が不要なときは使わない
4つめの注意点は、相手から許可をもらう必要がないときは『させていただく』を使わないことです。
前述したとおり、『させていただく』は相手に許可をもらっておこなう動作について使われる言葉ですよね。
そのため自分だけで決められることに『させていただく』は付けないようにしましょう。
やりがちな使い方として次のようなものがあります。
・当日は車でお送りさせていただきます
・資料をご用意させていただきました
上記の内容はとくに相手に許可をもらって決めたわけではありませんよね。
逆に「やってあげています感」が出てしまい、失礼に捉えられてしまうかもしれません。
このような自分だけで決められて相手の許可が不要な場合には、『させていただく』は不適切な表現なので使わないようにしましょう。
5.『いただく』はひらがな表記
『させていただく』を使う場合には、『させて頂く』としないようにしましょう。
なぜなら漢字の『頂く』を使う場合、意味が異なってくるからです。
辞書の意味では『させていただく』の『いただく』は他の動詞について『~してもらう』ことを表す補助動詞です。
それに対して『頂く』は単体でも意味が成り立ち、何かを直接もらったときに使われます。
文章の中で『頂戴する』と置き換えられる場合には漢字の『頂く』を使うようにしましょう。
実際に次の例文をみてみましょう。
正:レストランでディナーを頂いた
誤:レストランでディナーをいただいた
この場合の『頂く』はご飯を提供してもらって食べたことを表す直接的な動詞なので、漢字での表記が正しいですよね。
逆に『いただく』としてしまうと、何を補助しているのかわからなくなってしまいます
次の場合はひらがなの『いただく』が適切です。
正:練習を見学させていただきます
誤:練習を見学させて頂きます
このように、『いただく』と『頂く』では表すものが違うので『させて頂く』としないようにしましょう。
意味がわかっていると文章を作成するときも迷わずに適切な表現が使えますよね。
させていただくを丁寧に言い換える方法を解説
『させていただく』を使わなくても次のように言い換えることが可能です。
- いたします
- よろしいでしょうか
- ~します
1つずつみていきましょう。
1.いたします
最初に紹介するのは『~いたします』です。
『いたします』の意味
『~いたします』は謙譲語の『いたす』に丁寧語の『ます』を付けた表現で自分の動作をへりくだって述べるときに使われます。
『いたします』はあくまで自分が何か行動するときに使われる言葉なので、『させていただく』と違い相手に許可を求める必要がありません。
そのため汎用性が高くあらゆる場面で使用できますよ。
使用例文
実際に『いたします』を使う場合には次のようになります。
・当日は私が担当いたします
・こちらの資料をお送りいたします
どちらの文もすっきりとしていてわかりやすいですよね。
このように『させていただく』と言いがちな場面でも、『いたします』を使うことで文法的にも正しく読者も読みやすい文にできます。
1つ注意ですが、『させていただく』がひらがな表記であるのと同じで、『いたします』も『致します』と書かないようにしましょう。
『致します』をつかうと『致す』そのものが独立した動詞になるのでそれ以外の動詞を補助してくれません。
『よろしくお願い致します』と表記される方がいますが、『よろしくお願いいたします』が正しいので覚えておくといいでしょう。
2.よろしいでしょうか
続いて紹介するのは『よろしいでしょうか』を使った言い換えです。
『よろしいでしょうか』の意味
『よろしいでしょうか』は『よいですか』を丁寧にした言葉で、『問題ありませんか』と確認する場合に使える敬語です。
『させていただく』と同様に相手に許可をもらいたい場合に使える表現です。
使用例文
実際には次のように使用します。
・下記の内容での予約でよろしいでしょうか
・1つ質問してもよろしいでしょうか
このように使えば相手に伺いを立てる場面でも、丁寧に伝えられますよね。
『よろしいでしょうか』は目上の方やビジネスでも問題なく使用できる表現なので、覚えておくといいでしょう。
3.~します
3つめにご紹介するのはとてもシンプルに『~します』表現です。
前述したとおり、言い換え表現でもっとも適しているのは『いたします』ですがそれよりもさらにくだけた表現として押さえておきましょう。
『~します』の意味
『します』は『する』を丁寧に表現した言葉であり、幅広い場面で利用できる敬語です。
『いたします』は謙譲語なので、自分を下げることで相手への敬意を示せましたが『します』はそこまで強い意味はありません。
それでも丁寧な表現であることに間違いはありませんので、『させていただく』を多用して慇懃無礼になるよりもおすすめですよ。
使用例文
日常的によく使われる言葉ですが、例文をみてみましょう。
・内容を確認してお送りしますね
・この書類は来週までに提出します
上記の文も『させていただく』を使いたくなる方がいるかもしれませんが、それよりは『します』のほうがすっきりしています。
会社の同僚のような少しフランクな相手には『~します』がちょうどいい場合もありますので、覚えておくといいですね。
逆に『させていただく』を使うと「意味もわからずに使っているな」と思われてしまうかもしれませんよ。
漢字とは一味違う!させていただくの英語表現
『させていただく』と同様の表現が英語にもいくつかありますので、ご紹介します。
- 『Let’sme~』を使う
- 『allow me to~』を使う
1.『Let’sme~』を使う
1つめが『Let‘sme~』を使う表現です。
そもそもの意味が『私に~させて』であり、そこから『させていただく』という表現に近いものとして扱われます。
実際に使用する場合には次のようになります。
(Let‘sme~を使った例文)
・Please let’s me speech(私にスピーチさせてください)
・Let’s me check your data(あなたのデータを確認させてください)
次にご紹介する『allow me to』と比べると、こちらのほうが友人どうしでも使うようなフランクな表現になります。
イメージとしては「私にさせてくれる?」や「~してあげる」といった意味合いになりますので覚えておくといいでしょう。
2.『allow me to~』を使う
2つめが『allow me to~』を使った表現です。
もともと「~することを許可する」という意味がありますが、そこから派生して『恐れながら』や『~させてください』というニュアンスで使える表現です。
実際に使用するときは次のようになります。
(allow me toを使った例文)
・Allow me to introduce myself.(自己紹介させてください)
・Allow me to explain.(説明させていただきます)
このように相手に対して許可もらって何かする場合に使えるのが『allow me to』です。
このフレーズはオフィシャルな場面でも使用できるので、覚えておくと役立ちますよ。
まとめ|させていただくは使い方に気を付けよう
この記事を読んで『させていただく』の使い方や注意すべき点がわかりましたね。
もしも文章や口頭で『させていただく』を多用してしまっている場合には、まず適切な場面か確認しましょう。
その理由として記事でも解説したとおり、『させていただく』は『許可』と『恩恵』を受けるときに使用できる言葉だからですよね。
それ以外だと誤った使い方になってしまいます。
そして、『させていただく』が不適切なときは言い換えの言葉を当てはめてみましょう。
とくに『いたします』は相手の許可に関わらず、自分がする行為全般に使えて便利な言葉なのでおすすめですよ。
それぞれの言葉が使える場面を理解していると、文章作成もスムーズですし相手に対しても失礼がありませんよね。
『させていただく』を正しく使ってワンランク上の文章力を身に付けましょう。